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第一回森里海を結ぶフォーラム

2021年10月に、森、山、川、人々の住まいである里、海までの自然の大きな循環を再生、育てていこうと、長崎県諫早市で、「第一回森里海を結ぶフォーラム」を開催しました。

 

宮城県気仙沼で牡蠣の養殖をしながら川の上流地域の山への植林活動を続けている畠山重篤さん、中井徳太郎元環境事務次官、世界中で活躍されている野中ともよさん、地球環境をテーマにアーティスト活動をされているNOMAさんはじめ、各分野の研究者の方々、企業、行政の方々、一般の方々など、多くの方が参加してくださいました。

 

詳細は下記の報告書をご参考ください。

 

 

 

2021年10月1日(金)~10月3日(日)

フォーラム開催について

森から海までの自然の循環と人々の間の関係性の再生、干拓工事によって分断され大きく変化してしまった諫早湾や有明海の再生を願って、長崎県諫早市において、第一回森里海を結ぶフォーラムが開催された。

今回は、全国各地で同じ想いを共有し活動されている方々が集まり、情報交換をし、横のつながりをつくることが大きな目的とされた。初めての全国的な取り組みで、フォーラムの開催経験に乏しい8名の実行委員が全国から集まり、ボランティアチームとして、各自ができることを自主的に動きながら、資金も含めて手作りでのフォーラムを実現させることができた。

講演だけでなく、晴天の中、植樹祭で実際に身体を動かし、森から海へのつながりを体感することができ、参加者の間に笑顔が広がり、自分たちの生活が自然界に与える影響について想像力を膨らませることができた。

かつて、森から里、海までのつながりは人々の営みの中で確実につながっていたが、それが生活のあり方、経済、産業、土木、価値観、様々な変化のなかで急速にこの数十年で失われ分断されてしまった。それによって、生物多様性は急速に失われ、絶滅危惧種が増加の一途をたどり、人類の生活にも影響を与え始めている。今一度、立ち止まって、自然界で起きていること、私たちがやるべきことについて問い直すことが求められている。それを絶滅危惧種の生きもの達の代弁者や全国各地で森里海をつなぐ活動をされている方々の話から問いを深め、近未来に向けて何ができるのかを考えるきっかけの場になった。

今回、第1回森里海を結ぶフォーラムを諫早市で開いた理由は、かつて多様な生き物にあふれる日本有数の豊かな漁場であり、地元の人々の憩いの場でもあった諫早湾や有明海が干拓事業などによって、森から海までの自然の循環が分断され、その環境が大きく変わり市民の間にも分断や対立が生まれ、生活にも影響を与え続けていることによる。その諫早から流れを変えることによって、日本のみならず世界を変えてゆきたいとの志である。

タイトル:第1回森里海を結ぶフォーラム

開催日時:2021年10月1日(金)午後~3日(日)午前

開催場所:長崎県諌早市 

講演など:鎮西学院大学西山ホール

植樹祭: 多良岳に感謝の会広場

開催内容:

10月1日午後

講演:畠山重篤様「森は海の恋人33年-心の森を育む」

対談:野中ともよ様・NOMA様「いのちと地球をめぐる」

10月2日午前

植樹祭植樹(クヌギの苗木150本)

講話:畠山重篤様「森には魔法つかいがいる」

10月2日午後

全国交流会 

基調講演:環境事務次官中井徳太郎様「地域循環共生圏社会に向かって」

・森と海を結ぶ植樹祭をつなぐ

・九州における森里海の取組をつなぐ

・流域圏の共生を目指す世代をつなぐ

登壇者/実行委員意見交換・交流会

10月3日午前

絶滅危惧種円卓会議

基調講演:大久保規子様「自然の権利と森里海」

講演1:飯島博様「絶滅危惧種と子どもには、社会を変える力がある」

絶滅危惧7種間の意見交換

講演2:鳥居敏男様「森里川海が大好き子供達を育む」

絶滅危惧種による「森里海宣言」:亀井裕介様(高校二年生)

参加者概数

3日間とも講演会には100名前後が現地参加

2日目植樹祭には子供たち10名前後を含む約80名が参加

3日間ともに全国各地から200名前後がオンライン参加

アーカイブ動画の閲覧数はフォーラム後に増え続けており、フォーラムから1カ月経過の時点で平均閲覧数は300回となっている。

協賛

個人115名、団体・企業30

以下、各講演内容を記す。

<10月1日>

田中克実行委員長による開会の挨拶

フォーラム開催までの経緯、目的、3日間のフォーラムの概要などについて説明がなされた。

畠山重篤様「森は海の恋人33年-心の森を育む」

宮城県気仙沼湾でカキ養殖業を営まれている畠山様の活動は小中高の教科書にも載り、朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」のヒロインの祖父のモデルにもなっている。先人が千年のスパンで維持してきた森里海のつながりが戦後の高度経済成長期に壊れてしまい、牡蠣は赤潮の影響を受けて売れなくなってしまった。その原因を探る中で、森からもたらされる栄養分が足りないことに行きつき、市民で岩手県側の山に植樹を始めた。その「森は海の恋人」活動は多くの共感者を得て、全国に波及していった。東日本大震災では、三陸の沿岸域は再生不能とも思えたが、確かな森の存在が汽水域の生物生産を回復させ、カキ・ホタテ養殖の早期の再開を可能にしてくれた。畠山様は漁師ながら、哲学や詩などの教養に深く、和歌も親しみ、その縁で上皇后美智子様が英訳「The sea is longing for the forest」を示唆してくださったエピソードも紹介された。人を動かすには心をつかむことが大切だと話され、ジョーク混じりのウナギの話などで参加者を森里海のつながりの世界へ巻き込まれた。

対談:野中ともよ様・NOMA様「いのちと地球をめぐる」

野中様とNOMA様の対談では、女性ならではの人間の身体と宇宙、地球、自然のつながりの深さについて話が展開された。まずは、汽水域におけるいのちの豊かさ、母親の羊水と人の生まれ故郷である海の水はよく似ているという話。そして、古くから続く、微生物環境や自然との調和した暮らし、宇宙観や瞑想などの話。日頃食べる食べ物で身体はつくられており、何を食べるかということは自分自身にも、そして生まれてくる命のためにも、私たちが思っているよりもずっと重要である話。それらは男性よりも女性の方が体感しやすく、いのちの問題については、女性がより深く感じ、真剣に向き合っている。ガイア理論という地球をひとつの生命体とする科学的な観方がある。人のいのちと地球のいのちはすべてつながっている。そうした根源的ないのちのつながりを今の社会の仕組みでは軽んじられていることが大問題であり、そこを変えていくことが自然との共生にもつながり、深刻化しつつある地球環境問題の解決やそのための社会の変革への道であるとの思いにあふれる対談であった。

<10月2日>

植樹祭

多良岳の中腹で行われた植樹祭には約80名の方が参加した。天気も良く、諫早湾が見下ろせる景色の中、土を掘り、クヌギの苗木を植えていった。自然と参加者同士の会話も進み、楽しい植樹祭となった。後半、子どもたちが崖の近くの土を掘っていたところから湧水が出てくるのを発見した。畠山様からは森には魔法つかいがいる(中学校1年生の国語の教科書に掲載)という森里海を結ぶ講和がなされたが、まさに魔法のような光景であった。この植樹祭には地元の漁師10名ほどが参加し、諫早湾・有明海の再生をともに願う植樹祭となった。

講話:畠山重篤様「森には魔法つかいがいる」

連日の講演となった畠山様の講和だが、1日目とは違う話題で参加者の笑いと興味を引く話をしていただいた。「森は海の恋人」活動で、畠山様は豊かな森からフルボ酸鉄が海に流れ、植物プランクトンを増やし、魚介類を育むという話をされた。また、上皇后陛下美智子様ともご懇意にされているが、美智子様が歌や言葉を大事にされており、楢の木を意味する「柞(ははそ)」を歌った気仙沼の和歌を美智子様にご紹介されたエピソードなど、日本人の奥底に眠る歴史観、価値観、文化などと森里海の関係について奥深い話をしていただいた。

全国交流会

午後は、環境事務次官である中井様からの基調講演、第一部から第三部までは全国各地で森里海を結ぶ植樹活動、自然環境再生、里山再生、生態系保全、林業、教育などの活動をされている方々からの講演を15分ずつ要約的にご紹介いただいた。

基調講演:環境事務次官中井徳太郎様「地域循環共生圏社会に向かって」

中井事務次官からは、地球環境問題、気候変動に対して、世界は一致団結して二酸化炭素排出を削減していかなければならないが、それを我慢合戦にするのではなく、逆に地域の成長戦略にしようとする環境省の基本戦略「地域循環共生圏社会創生」に関してご講演いただいた。中井様は官僚でありながら、訪れる各地の海や川で禊を行い、日本古来より伝わる精神性を大事にされている希有な存在である。森里川海のつながりの再生と日本の伝統的な営み、現代技術、ライフスタイルを融合させることによって、国をあげて、地球規模の課題を克服しながら、豊かな地域社会を土台にした国を築いて行こうと、熱弁をふるっていただいた。

第1部森と海を結ぶ植樹祭をつなぐ

  1. 森里海を結ぶ植樹祭(長崎県):森里海を結ぶ会(田中克代理紹介)
  2. 椎葉村海山交流植樹祭(宮崎県):同志社大学特任教授 大和田順子様  
  3. 淀川ウナギの森植樹祭(大阪府):津田産業株式会社 津田潮様
  4. 森は海の恋人植樹祭(岩手県):NPO 法人森は海の恋人(田中克代理紹介)
  5. 陸奥湾の海と山を結ぶ植樹(青森県):NPO 法人白神山地を守る会 永井雄人様

第2部九州における森里海の取組をつなぐ

  1. 長崎県におけるスナメリの森づくり:NPO 法人おおむら里山づくり委員会 加固治男様
  2. 佐賀県森川海人っプロジェクト:佐賀県森林整備課副課長 武田経孝様
  3. 福岡県筑後川上流域における林業:田島山業株式会社 田島信太郎様
  4. 熊本県における植樹活動:水上焼畑の会 平山優子様

第3部流域圏の共生を目指す世代をつなぐ

  1. 高校における森里海を結ぶ教育:福岡県立伝習館高校 自然科学部員様
  2. 大学における森里海を結ぶ教育:京都大学フィールド科学教育研究センター 赤石大輔様
  3. 都市圏における流域一貫の取り組み:武庫川流域圏ネットワーク 山本義和様
  4. 郡上八幡山と川の学校:岐阜の田舎へ行こう推進協議会 三島真様

< 10月3日> 絶滅危惧種円卓会議

基調講演:大久保規子様「自然の権利と森里海」

大久保様からは世界各地での自然の法的な権利に対する動向の変遷や日本の現状についてご講演をいただいた

世界では法人格のように自然そのものにも権利があるという認識が進み、法律が整備されてきている。一方、日本は世界から著しく遅れ、まだそのような概念がなく、裁判所でも取り扱ってもらえないのが現状である。過去に生きものの名前で裁判を起こした例はあるが、それを受け入れる土壌が日本にはなく、退けられてしまった。

元来、自然と共生する営みを他の国よりも長く続けてきた日本である一方、目に観えるものだけで是非を判断してしまうところが問題であり、海外の事例などを参考にしながら、自然にも権利があるとの方向に変えていく必要があることを感じさせる講演であった。

講演1:飯島博様「絶滅危惧種と子どもには、社会を変える力がある」

オンラインでの講演であったが、アイヌのカムイによってウナギが飯島様に乗り移り、霞ケ浦の今昔について興味深い話をしていただいた。また、小学生によるお年寄りへの昔のウナギの生息状況やや環境に関する聞き取り調査などを紹介していただいた。その中で、自然のままに河川を残すのと、コンクリートなどで三面張り的な工事を行うのでは、コストや経済効果にこのような差があるとの数字で示す説得力のある話をしていただいた。

絶滅危惧7種間の意見交換

今回のフォーラムの出発点でもあった絶滅危惧種の円卓会議には、北海道のシマフクロウ、対馬のツシマヤマネコ、山口県のカブトガニ、福岡県の二ホンウナギ、徳島県のコウノトリ、滋賀県のニゴロブナ、岐阜県のカワガキ(人)という全国の7種の絶滅危惧種代理人として活動されている方に集まっていただき、現状や課題、森里海のつながりとの関係などを語り合っていただいた。

講演2:鳥居敏男様「森里川海が大好き子供達を育む」

前環境省自然局長、現参与の鳥居様からは、子どもの自然遊びについてご講演いただいた。子どもの頃に自然遊びをしていた世代が近年になるに従ってだんだんと少なくなっている事実や、自然遊びをしていたことが多い人ほど、大人になった時の自己肯定感、人間関係能力が高い傾向にあること、森の中で遊ぶ森ガキ、川で遊ぶ川ガキ、海で遊ぶ海ガキなどの復活に対する取り組みについて話をしていただいた。

絶滅危惧種による「森里海宣言」:亀井裕介様(高校二年生)

やながわ有明海水族館の三代目館長を務めている高校二年生の亀井様が感じている大きな問題は、子どもの自然離れだという。水族館を訪れる小学生などの多くは生きものを観て「かわいい」と歓声をあげても、触ることができず、生きものを完全に自分とは違う存在だと切り離して捉えている現実を紹介された。現在の一番の絶滅危惧種は自然遊びをする子どもなのではないか、自然に興味のある子どもがいなくなれば、将来、自然を大事に考える価値観はなくなってしまう。そうならないためにも、子どもたちは自然の中で遊ぶことを宣言した。

田中克実行委員長によるフォーラム閉会の言葉

今回のフォーラムに登場してもらった絶滅危惧種は全て直接水に関わっている。その水の循環を妨げてしまったのは人間。それに気づいて、地球を再生させないと未来世代に確かな未来はない。そのためには現実と向き合い、現実を変えていく行動が必要となる。その中で、子どもには大人にはできない創造力がある。それをどのように大人たちが引き出せるかが問われている。今回のフォーラムで築くことができた多様なつながりをどのように深め広げていけるかがとても大事である。これから、今回のフォーラムに協賛いただいた皆さんやご登壇いただいた、自然科学、法学、環境経済学、社会学など多様な分野の研究者と一般の市民が協働し、確かな科学的なデータに基づき、現実を変えていく力になりうる総合的な研究の場をつくっていきたい。FFF(Fridays For Future) Nagasakiなどフォーラムに参加してくれた地元の高校生世代が環有明海の若者ネットワーク生み出していく可能性も観え、そのような未来世代の若いエネルギーにも参加してもらえるような場をつくっていきたい。

全国から多くの応援のメッセージを受けてフォーラムを成功させることができ、本当に良かったとすべての実行委員で共感することができた。会場やオンラインで参加してくださったみなさんへの感謝の気持ちを明日からのエネルギーに変え、今日を次への取り組みの出発点にしたい。

フォーラムを終えて

登壇者、参加者、ボランティアスタッフ、実行委員の間で、多くのつながりが生まれた。そのつながりによって、形として具体的な取り組みも始まりつつある。今回のフォーラムは、単なる情報共有、交換にとどまらず、人と人のつながりを生み、今後の大きなうねりへと発展する確かなきっかけとなった。

最期に

第一回森里海を結ぶフォーラム開催趣旨にご共感、ご協賛、ご支援いただき、厚く御礼申し上げます。自然と人が共生し、豊かな循環のある未来をつくっていけるよう、実行委員一同、今後も活動してまいります。今後とも、ご支援、ご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

第一回森里海を結ぶフォーラム実行委員

代表 田中克、川合沙代子、下田知幸、菅野直子、鈴木弘章、西山史一、平方宣清、横林和徳(敬称略、代表以下五十音順)

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